novels TOP

 アイコン 獄誕おまけ小説

 アイコン                 

 ライン ライン

「ツナ!お〜い、ツナ!」

山本の呼ぶ声に、俺はハッと目を覚ました。

「――えっ!?何? 山本??」

うららかな気候に恵まれた秋の昼下がり。

あの後またしても獄寺くんのことをぐるぐると考えまくって、脳内の糖分が少なくなってきた頃、

いつの間にか机に突っ伏して寝てしまっていたようだ。

「ツナ、ほっぺに教科書の痕ついてるのな〜!

すげー天気もいいし、屋上行って飯食おうぜ!」

元気にあははと笑う山本につられて、さっきまで考え込んでいたこともすっかり忘れ、

俺は「うん」と笑顔で返事を返した。



奈々特製の弁当を持って、さっそうと歩く山本のあとに続く。

ぎぃ…と重たいドアを開けると、そこには白いひつじ雲がぽこぽこと浮いた、秋晴れの晴天が広がっていた。

「うお〜、すげー気持ちいい!! やべぇ、俺寝ちまいそうな気がする!」

屋上の扉を開けるなり、山本はそう言って大きく伸びをした。

辺りにはさわやかな柔らかい風がそよそよと吹いていて、本当に絶好の昼寝日和だ。

「やっぱり秋はいいよね〜。一番過ごしやすいんじゃないかなぁ」

俺はいつもの定位置までくると、ゆっくりと腰をおろして弁当を広げ始める。

その横に山本も座って、おじさん特製のちらし弁当をかき込みはじめた。

「あっ!山本の弁当、いつもと違うね〜。

――それ、栗?」

「ああ、なんか秋バージョンらしいぜ? ツナもひと口食うか?」

「うん!ありがとう。いただきます!」

彼の弁当はいつもだいたい寿司系のネタなのだが、

今回の弁当は、栗や焼きシャケ、銀杏まで散った、秋の行楽弁当みたいな仕上がりだった。

「うわっ!おいしい!すごい栗あまい!

やっぱりおじさんのお寿司は絶品だね〜」

あまりのバランスの良さとおいしさに、俺はそれを褒めちぎった。

「そうだろ?この寿司酢の配合とかさ〜、おやじにしか出来ねぇんだよな〜」

うまいうまいと言いながら、山本はさらにそれをかき込みはじめた。

ふと、俺は自分の弁当に視線を落として、その中に入っている唐揚げを見つめる。







(ごくでらくん、パンだけじゃ栄養偏るよ?

俺の弁当少しあげるから、ホラ、食べなよ。)

(い、いえ、じゅうだいめのお弁当を頂くだなんて、めめめめ、めっそうもありませんっ!

そ、それに、俺が食べてしまったら、じゅうだいめの栄養が偏ってしまいますし…!)

(なに言ってんの。俺は毎日かあさんのご飯食べてるから、少し弁当分けたくらいで栄養偏ったりしないよ。

ほら、くち開けて。

ハイ、あ〜ん)

(!!!!!!!!

………………………あ〜ん)

(うおっ! 獄寺かお真っ赤なのな〜〜!)

(!!?  うるへー!!やきゅうばか!

じゅうだいめの前でよくも俺に恥をかかせたな!

てめ―、ちょっと顔貸せ!)

(――いいから、獄寺くん。

ホラ、座りなさい――)

(……ハイ、すみません。じゅうだいめ)

(――はい、つぎはからあげね。あ〜ん)

(!!!!!!!)

(やっぱり獄寺、ゆでだこみてぇ〜!

おもしれーのなぁ〜〜)





――そんな日常が少し前まで普通だったのに…。

「……獄寺くんも、いっしょにいれば良かったのにね…」

ふいに呟いた俺の一言に、すでに弁当を食べ終わっていた山本は

いっぱいになった腹をさすりながら、静かに空を見上げて呟いた。

「―あいつ、バカだからな。

別にそんな悩む必要なんかねーのに、ひとりで抱え込んでさ…。

ぜってーうまくいくんだから、さっさと言っちまえばいいのによ〜」

(――― ん?

なんかいま、聞き捨てならないことを聞いたような…。

山本、いま、なんて言った……?)



「―――山本!!!」

「えっ? お、おう!」

「もしかして獄寺くんが居なくなった理由、知ってんの!?」

俺は目の前の親友のえりぐりを掴まんばかりのいきおいで、彼のそばに詰め寄ると、

ぎん!と目を見開いて目力だけで彼を追いつめ、詰問した。

「ん?ん。

まあ、知ってるって言えば、知ってるけど…。

べつに本人から直接聞いたわけじゃねーし。俺の推測でしかねーけどな。

――なんつーか、獄寺の場合、だだ漏れだろ?」

彼は両手の掌をひらひらと振って、降参の意をしめす。

「?」

「あ、あぁ、ツナにそんなこと言ってもわかんねぇよな。

でもこれは俺からツナに言っていいことじゃねーと思うし、

獄寺が直接言わねぇとなぁ……。

ツナも案外天然だしな〜」

と、彼はわけの分からないことを小さくぼやくと、悩むように両腕を組み、空を見上げた。

「――やっぱり、俺がらみなんだ…」

薄々というか、普通に分かっていたけれど、それを直接耳にするとふつうに凹む。

「まぁ、そんな気落ちするようなコトじゃねーから、大丈夫だよ!

もうちょっとでツナの誕生日だしな。その頃には獄寺も戻ってくるんじゃね?」

「………う〜ん。そうだといいんだけど」

俺が大きくため息をつくと、山本はニカッと笑って、俺の背中をバシバシ叩いた。

「ほら!元気出せよ!

獄寺にかぎってツナの誕生日忘れるわけねぇだろ?

あいつはちゃんと戻って来るから、それまでにツナはちゃんと寝て、ちゃんと飯食って、

万全の状態で待っててやろーぜ!? な?」

山本は俺の肩をガシッと掴むと、いつもの優しい、さわやかな笑顔を向けてくれた。

「―――うん」

(そうだよね。俺がこんなナリじゃ、獄寺くんも、きっと心配するよね。

――やっぱり山本はすごいや。

ずっと悩んでたのに、なんか俺、すごいスッキリした気がする…)

俺は吹っ切れたような、さっぱりした笑みを返すと、

手つかずのままになっていた弁当を、ガガっとかき込みはじめた。







(――きみはいま、なにをしてるのかな――。


――おれはいま、きみのことばかり、がんがえているよ――。




――はやくおれのもとに、もどっておいで――)









 つづく メニュー  

Since/2011/09/09 presented by atelier shiragiku